爽やかな空と河原の風景
更新日:2025-09-07
土地

はじめに:住まいの安心を科学する「土地選び」


日本は地震、豪雨、台風など、多様な自然災害に見舞われる国です。このような環境下で、安心して暮らせる住まいを築くことは、未来の生活を守るための最も重要な課題の一つと言えます。そして、その安心の土台となるのが、家を建てる土地選びです。土地選びは、単に利便性や価格で決めるものではなく、その土地が持つ災害リスクを多角的に見極める科学的なプロセスへと進化しています。

本記事では、これから家を建てようとする方々が、災害に強い土地を賢く選ぶための具体的な方法を、「過去」「現在」「未来」の三つの視点から解説します。専門的な知識がなくても、誰もが実践できる調査方法を、分かりやすくご紹介します。



土地の「過去」から災害リスクを読み解く


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地名に隠されたヒント


土地の歴史は、その地名に刻まれていることがあります。地名は、時に過去の地形や災害の痕跡を示す「土地の履歴書」と言えるでしょう。例えば、水害にまつわる「池」「沼」「谷」「袋」「江」といった漢字や、土砂崩れを示唆する「蛇」「萩」といった漢字を含む地名には、注意が必要です。一方で、近年流行している「○○ヶ丘」のような新しい地名の中には、かつての地形を消し、イメージを良くするために付けられた「キラキラ地名」も存在します。これらが実は、埋立地や造成地である可能性も否定できません。地名だけで安易に判断せず、他の情報と組み合わせて確認することが重要です。


古地図と地形図で土地の素性を知る


より確実な過去の情報を得るには、国土地理院が提供する「地理院地図」などを活用し、過去の地図や空中写真と現在の地図を重ねて確認する方法があります。昔は田んぼや湿地、川、海だった場所は、水分を多く含みやすく、軟弱な地盤である可能性が高まります。特に、こうした土地は地震発生時に液状化のリスクを抱えている場合があるため、過去の利用履歴を把握することは、地盤の強さを推測する上で有効です。



最新データで土地の「現在」を知る


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ハザードマップポータルサイトの活用


土地の過去の履歴を把握したら、次は最新の科学的データであるハザードマップで現在のリスクを評価します。国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」は、複数の災害リスク情報を地図上でまとめて閲覧できる便利なツールです。

このサイトでは、洪水、土砂災害、津波、高潮、内水氾濫、地震など、様々なハザードマップを重ね合わせて確認できます。例えば、地名が示唆する歴史的な経験と、ハザードマップが示す科学的な予測を組み合わせることで、リスクの信憑性をより高めることが可能です。また、地名にリスクが含まれていても、ハザードマップが安全な地域と示している場合は、過去に治水工事や地盤改良といった対策が講じられている可能性を推測できます。


土地の履歴と地盤調査の重要性


ハザードマップは広域的なリスクを把握するのに役立ちますが、個々の土地の地中の状態を正確に知るには、専門家による地盤調査が不可欠です。家を建てる際には、法律で地盤調査が義務付けられており、この結果をもとに、土地が建物の重さに耐えられるかどうかが判断されます。オンラインツールなどで表面的な情報を手軽に得た後、最終的な購入判断の前には、専門家を交えた精密な調査を行うことが、後悔しない家づくりの鍵となります。



災害に「強い家」を建てるための選択肢


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地盤の弱さを克服する「地盤改良」


地盤調査で軟弱と判定された場合でも、適切な地盤改良工事を行えば、安心して家を建てることが可能です。主な工法には、地表近くの土をセメント系固化材で固める「表層改良工法」、地中にコンクリートの柱を形成して建物を支える「柱状改良工法」があります。他には、強固な地盤まで鋼管を打ち込む「鋼管杭工法」などがあり、土地の状況や建物の規模に応じて最適な方法が選ばれます。


建物で身を守る「耐震・免震・制震」


土地の安全性を確保した上で、建物の構造面でも災害対策を講じることで、さらに安全性を高めることができます 18

  1. 耐震: 筋かいや構造用金物で建物の強度を高め、地震の揺れに耐える構造です。最も一般的な方法ですが、建物自体へのダメージは蓄積します。
  2. 免震: 基礎と建物の間に特殊な装置を設置し、地震の揺れが建物に直接伝わるのを軽減します。建物や室内の損傷を防ぐ効果が高い反面、コストは高くなります。
  3. 制震: 建物内部にダンパーなどを組み込み、揺れのエネルギーを吸収する構造です。特に高層階の揺れを抑えるのに有効で、耐震構造と組み合わせることで相乗効果が期待できます。

また、凹凸の少ないシンプルな建物の形状にすることで、風や地震のエネルギーをバランス良く分散させることができます。



未来の安心を築く「建設テック」の力


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データで「見えないリスク」を可視化する


建設業界では今、AI、IoT、ドローンなどを活用した「建設DX」が加速しています。これらの技術は、ドローンとAIによる外壁検査など、熟練技術者の不足を補うだけでなく、これまで見えなかったリスクの可視化と安全性の向上を同時に実現する可能性があります。


BIMとGISが描く未来の防災


BIM(Building Information Modeling)は建物の3Dモデルとデータベースを統合した技術、GIS(Geographic Information System)は地理情報を統合したシステムです。この二つを連携させることで、単一の建物だけでなく、都市全体の防災をシミュレーションする研究が進んでいます。例えば、津波や地震発生時の人々の移動を予測し、最適な避難経路を算出するツールが開発される可能性も考えられます。


デジタルツインが拓く安心な暮らし


建物を仮想空間に再現する「デジタルツイン」技術は、不動産業界に影響を与えつつあります。建物の劣化や設備の不具合を事前に予測し、計画的なメンテナンスが可能となり、長期間にわたる資産価値の維持に貢献できます。これは、家を建てた後の安心をデータとテクノロジーで支える、新しい暮らしの形です。



おわりに:土地選びから始まる、データとテクノロジーで拓く安心な暮らし


土地選びは、単に「場所」を決めることではなく、データとテクノロジーを駆使して未来の「安心」を設計する最初のプロセスです。地名や古地図から土地の歴史を知り、ハザードマップや地盤調査で現在のリスクを正確に把握する。そして、地盤改良や耐震構造、さらにはBIMやAIといった建設テックの力を活用し、災害に強い建物を築く。

株式会社manaは、建設業界のデータ活用を専門とする企業として、お客様が安心できる家づくりを、データとテクノロジーの力でサポートしてまいります。