2024年問題
更新日:2025-06-22
建築

日本の社会基盤を支える建設業界は、私たちの暮らしに不可欠な役割を担っています。しかし、今、この業界は「2024年問題」という大きな転換点に直面しています。これは単なる法規制への対応に留まらず、業界全体の構造的な変革を促すものです。この変革の波を乗りこなし、持続可能な成長を実現するためには、ITやDX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されています。本記事では、「2024年問題」の概要から、その背景にある課題、そしてIT・DXがもたらす解決策について詳しく解説します。



2024年問題とは?働き方改革が建設業にもたらす変化


「2024年問題」とは、建設業が2024年4月1日から「働き方改革関連法」による時間外労働の上限規制の対象となることを指します。これまで建設業は、その業務の特性から5年間の猶予期間が設けられていましたが、この猶予期間が終了し、他の産業と同様に厳格な労働時間管理が求められるようになりました。

主な変更点は以下の通りです。


  1. 時間外労働の上限規制の適用:
  2. 原則として、時間外労働は月45時間、年360時間が上限となります。
  3. 臨時的な特別な事情がある場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内、単月100時間未満という上限が設けられます。
  4. ただし、災害時の復旧・復興事業においては一部例外規定が適用されます。
  5. これらの上限規制に違反した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が科される可能性があります。
  6. 割増賃金率の引き上げ:
  7. 中小企業における月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が、2023年4月から25%から50%に引き上げられました。
  8. 同一労働同一賃金:
  9. 正社員と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差をなくす「同一労働同一賃金」の原則も適用されます。これは、雇用形態に関わらず同じ仕事内容に対して同一の賃金を支払うことを求め、企業全体の人件費上昇につながる可能性があります。


これらの法改正は、単に残業時間を削減するという表面的な問題に留まりません。企業が時間外労働の上限を超過すれば罰則に直面し、もし特別条項を利用して残業を継続した場合、その残業代のコストが大幅に増加します。これは、労働時間を削減してプロジェクトの遅延や人員不足のリスクを負うか、同じ残業時間に対して大幅に高いコストを支払うかの選択を生み出します。さらに、同一労働同一賃金の原則も全体的な人件費上昇の可能性を高め、企業は単に多く支払うのではなく、限られた労働時間、または高コストの労働時間で、これまでと同じかそれ以上の成果を出す方法を見つける必要に迫られています。この状況のなかでは、テクノロジーによる生産性向上が期待されます。



なぜ今、この問題が重要なのか:建設業界が抱える背景と課題


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「2024年問題」が建設業界にとって特に大きな意味を持つのは、業界が長年抱えてきた構造的な課題と密接に結びついているからです。

まず、慢性的な長時間労働が挙げられます。国土交通省の資料によると、建設業の年間実労働時間は全産業平均と比較して68時間も長く、年間出勤日数も12日多い傾向にあります。また、労働者の約4割が週休1日以下で働いているという実態も報告されています。

次に深刻なのが、若手人材の不足と技能者の高齢化です。建設業の就業者数は1997年のピーク時685万人から、2022年には479万人へと減少傾向にあります。特に技能者の高齢化は顕著で、60歳以上の技能者が全体の約4分の1(または36.6%)を占める一方で、29歳以下の若手人材はわずか11.7%しかいません。これにより、業務負荷が特定のベテラン技能者に集中し、後継者不足から重要な技術継承が困難になるという課題が生じています。

これらの問題は、相互に悪循環を生み出しています。長時間労働は、若者にとって建設業界の魅力を低下させ、人手不足をさらに悪化させます。この人手不足が既存の労働者への負担を増大させ、長時間労働を常態化させるという悪循環を生み出しています。また、高齢化は重要な技術の喪失を意味し、利用可能な労働力プールをさらに縮小させています。単に残業時間を制限するだけではなく、根本的な原因である業界の魅力、技術継承、生産性といった課題に対処しなければ、問題はプロジェクトの遅延やコスト増加といった形で転嫁されるだけです。この悪循環を断ち切るためには、包括的なアプローチが必要です。


2024年問題が引き起こす具体的な影響と業界の対応


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「2024年問題」は、建設業界に以下のような具体的な影響をもたらします。


  1. 人手不足の深刻化と人件費の増大:
  2. 時間外労働の制限により、これまでと同じ量の仕事をこなすためにはより多くの人員が必要となりますが、既に人手不足は深刻化しています。さらに、割増賃金率の引き上げにより、特に残業に依存してきた企業の人件費は直接的に増加します。これは企業の経営を圧迫する要因となります。
  3. 工期の長期化とコスト増加:
  4. 一人あたりの労働時間短縮は、プロジェクト期間の延長や追加人員の必要性を生み出し、結果として全体的なコスト増加につながります。また、「著しく短い工期」での請負契約は、建設業法で禁止されているものの、2024年問題によりさらに難しくなります。これまでの厳しい納期に対応するために労働時間の延長に依存してきた業界の慣行は、今後なくなっていくでしょう。
  5. 企業競争力の低下:
  6. これらの変化に適応できない企業は、コスト増、プロジェクト遅延、人材確保の困難に直面し、結果として企業競争力が低下するリスクを抱えます。


このような影響に対し、建設業界では以下のような対応が求められています。


  1. 工期の見直しと適切な労務管理: 法令遵守とコスト管理のために不可欠な対策であり、より現実的な計画が要求されます。
  2. 働き方改革の推進: 単なる労働時間短縮だけでなく、柔軟な働き方の導入、安全衛生の徹底、女性やシニア層、若手など多様な人材の活用を含む対策が必要です。
  3. DX(デジタルトランスフォーメーション)による労働生産性の向上: 限られたリソースで施工を進めるための工夫として、DXが有効な解決策の一つとして注目されています。プロジェクト管理は、プロセス最適化、リソース配分、予測に焦点を当てた、より高度なものになる必要があり、これには高度なITツールの活用が期待されます。



IT・DXが鍵を握る:生産性向上と持続可能な成長への道


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「2024年問題」を乗り越え、建設業界が持続可能な成長を遂げるためには、ITとDXの積極的な活用が不可欠です。DXは、人手不足や生産性停滞といった長年の課題に対処するだけでなく、業界の保守的な文化やデジタルスキルギャップの克服にも貢献します。さらに、効率化だけでなく、現場の安全性向上やコスト削減にも寄与します。

具体的なDXソリューションとしては、以下のようなものが挙げられます。


  1. データ活用支援:
  2. 現場の進捗状況や作業効率をリアルタイムで把握することで、計画の遅延や無駄な作業を削減し、プロジェクト全体の生産性を大幅に向上させることが可能です。資材管理の最適化や予知保全にも貢献し、例えばクラウド型労務管理システムは、勤怠管理や給与計算を効率化し、管理業務の手間を削減します。
  3. BIM(Building Information Modeling)活用支援:
  4. BIMは、建物の情報を統合した3Dモデルを構築することで、設計段階でのミスを削減し、手戻り工事の回避を実現します。これにより、情報共有とコラボレーションが強化され、プロジェクト全体の効率性が向上します。
  5. AI(人工知能)活用支援:
  6. AIは、建設業界の様々な領域で革新的な効率化をもたらします。例えば、設計作業の一部の自動化により、レポート作成にかかる時間を約85%削減できる事例があります。施工スケジュールの最適化、リスク予測や作業員の動態管理による安全性向上にも貢献します。これまでに大手建設会社の先進的な活用事例が多数報告されています。


これらのDX技術は、単なるコスト削減や効率化の手段に留まりません。手作業や反復的、あるいは危険な作業を削減し、より技術的で効率的な作業環境を構築することで、建設業界を若くテクノロジーに精通した人材にとってより魅力的なものにし、長期的な人手不足の緩和に役立つ可能性があります。

特に中小企業においては、導入コストやスキル不足といった課題が認識されていますが、DXによる大きな効率化は十分に可能です。ドローンを用いた現場管理や、BIMを活用した設計から施工管理のデジタル化など、中小企業にもDXを成功させた事例が多数存在します。施工管理アプリ、クラウド型労務管理システム、資材調達プラットフォームなど、導入しやすいツールも登場しています。DXは大手企業だけの領域ではなく、中小企業にとってもアクセス可能であり、生産性向上への期待が高まっています。



おわりに:変革の時代を共に歩むパートナーとして


「建設業の2024年問題」は、建設業界にとって大きな課題であると同時に、業界が旧来の慣習から脱却し、未来へ向けて進化するためのまたとない機会です。持続可能な成長と業界の明るい未来のためには、ITやDXを積極的に活用した先見的な対策が不可欠であり、外部の専門知識の活用が成功の鍵を握ります。

株式会社manaは、「建設業界のデータを集約し建設業界に対してデータ活用の専門家集団として独自の高い価値を届ける」ことを使命とする、建設業界に特化したIT企業です。データ活用支援、BIM活用支援、AI活用支援といった専門性の高いサービスを通じて、企業の皆様がこの変革の道を成功裏に歩むための信頼できるパートナーとなることをお約束します。

「2024年問題」を乗り越え、より安全で、よりスマートで、より魅力的な建設業界を共に築き上げるために、ぜひ株式会社manaの専門知識をご活用ください。